以下に特徴的な画像と参考論文・サイトや一般的事項の解説をします。
ウェステルマン肺吸虫症の一般的知識
ウェステルマン肺吸虫症は、主に川カニ(サワガニ・モクズガニ)やイノシシの生食または不十分な調理によって感染する寄生虫症。
- ウェステルマン肺吸虫症は、アジア、アフリカ、南米の多くの地域で風土病。
- 近年、旅行者の増加や食品取引の拡大により、世界中で発生。
- ヒト肺吸虫に感染していると推定される人数は、世界中で2300万人。
- 2億9300万人が肺吸虫症に感染するリスクがある。
- 日本では、南九州を中心に比較的稀な疾患ですが、近年増加傾向にある。(食習慣が違う外国人が増加している影響はあると思われる。)
- イノシシからの感染例が増加。
診断方法
- 喀痰検査: 虫卵の検出が確定診断に重要
- 血清学的検査: ELISA法などで抗体を確認
- 胸腔鏡下生検: 胸膜病変からの組織採取で虫卵を確認する方法も有用
治療
駆虫薬 (プラジカンテル)が有効
ウェステルマン肺吸虫症の一般的な画像所見
- 肺実質病変として線状影 (胸膜から連続する侵入痕跡:虫道)
- 移動性の陰影
- 浸潤影 (虫体や虫卵に対する炎症反応)
- 結節影 (典型的には辺縁に造影効果、内部が低吸収)
- 胸水・気胸・胸膜肥厚など
- 脳、肝臓、皮下組織、筋肉、大網、後腹膜、副腎、卵巣、精巣上体など、様々な臓器に異所性病変が生じる
- 鑑別疾患は、肺癌、転移性腫瘍や結核などが考慮される。
参考症例画像
症例1 72歳男性

右肺野に線状影、結節影を認める。

右S2に結節影、左S6に結節影、両下葉に線状影を認める。
症例2 47歳男性

肺下葉に認めるウェステルマン肺吸虫症、Aでは肺結節、Bでは虫道を示唆する所見を認める。
症例3 16歳男性

Aでは虫嚢と思われる結節、Bでは結節周囲にすりガラス影を伴っている。多量の左胸水を伴っている。
症例4 頭部病変 (A) 15歳男性 (B) 38歳男性

Aでは左後頭葉に斑状の低吸収域を認める。Bでは右基底核に斑状の混合陰影 (結節状?)、左基底核に腎臓のような形の明瞭な低吸収域を認める。
症例5 9歳男性

肺と脳の両方に肺吸虫症を認めた症例
A,B:多発結節で一部は虫嚢を思わせる結節もある。
C:ring状のT2WI低信号を伴い、内部は不均一な高信号を示している。
D:病変にリング状の造影効果を伴っている。
症例6 59歳男性

A:結節、空洞性結節を認める。(胸膜に接する線状影もある)
B:おそらく虫道と思われる2重線の病変を認める。気管支血管束との関連はない。
症例7 45歳男性

A:右胸膜下、葉間裂に低吸収(15HU)の部分と造影後高吸収(80HU)を示す結節を認める。
B:小葉間裂の肥厚や臓側胸膜の肥厚を伴っている。

C:FDG PETではSUVmax=8.1の集積を認める。
症例8 43歳女性

症例9 19歳女性

症例10 44歳男性

症例11 42歳女性

参考 表

- 数:1(58%), 2(19%), 多発(23%)
- 辺縁:不明瞭(74%), 明瞭 (26%)
- 場所:末梢 (100%), 胸膜下or葉間に接して(87%),
- 結節内の低吸収域 (87%), 空洞 (58%)

- 肺結節に近接する部位での局所的な胸膜肥厚 or 胸膜引きつれ(87%)
- 胸膜下で胸膜と結節をつなぐ線状陰影(48%)
- 葉間裂の肥厚 (32%)
- 胸膜外脂肪の肥厚 (29%)
- 結節周囲のすりガラス影 (58%)
- 近傍の気管支拡張 (55%)
- 肺門・縦隔のリンパ節腫大 (13%)
- 胸水、気胸、あるいは混在 (29%)
症例12 9歳女性 頭部MRI

A,B: FLAIRで脳の軟化症と脳室拡大、円形の石灰化を伴う(非提示)腫瘤を認める。
C,D: 複数の境界明瞭な石灰化(非提示)を遠なう腫瘤を前頭葉底部に認める。
症例13 頭部CT 症例不詳

石灰化を伴う脳吸虫症
症例14 71歳男性

症例15 43歳男性

症例16 62歳男性

症例17 52歳男性

症例18 44歳女性

A-C:治療前、D-F:治療後
症例19 59歳女性

症例20 29歳女性

症例21 45歳男性

A: 小網に病変を認めたもの
B:多発空洞結節、一部胸膜と線状につながる
症例22 58歳男性

A:腎背側の左後腹膜病変
症例23 21歳女性

症例24 39歳男性

C:FDG-PET (元論文にSUVmaxの記載なし)
引用文献など
【症例1】 倉橋 直仁ら「ウェステルマン肺吸虫症の一例」 多根医誌 第5巻 第1号. 39〜42, 2016
【症例2〜5】Shambhu Kumar Sah et.al「Imaging findings of Paragonimus westermani」 Radiology of Infectious Diseases 3 (2016) 66-73
【症例6】平塚 雄聡ら「CTにて虫道形成を認めたウエステルマン肺吸虫症の1例」日呼吸会誌 42(5),2004.
【症例7〜11 + 参考】Tae Sung Kim et.al「Pleuropulmonary Paragonimiasis: CT Findings in 31 Patients」AJR 2005; 185:616–621
【症例12】Jeong-Geun Kim, et.al 「Cerebral paragonimiasis: Clinicoradiological
features and serodiagnosis using recombinant yolk ferritin」PLoS Negl Trop Dis 16(3): e0010240【症例13】「Paragonimus westermani – Laboratory Diagnosis, Treatment, Prevention, Control」study microbio https://studymicrobio.com/paragonimus-westermani-laboratory-diagnosis-treatment-prevention-control/
【症例14〜22】Kyung Nyeo Jeon, et.al 「Paragonimiasis: A Pictorial Essay」J Korean Soc Radiol 2013;69(5):365-371
【症例23〜24】Kai Ke Li, et.al「What Findings on Chest CTs Can Delay Diagnosis of Pleuropulmonary Paragonimiasis?」Tomography 2022, 8,
1493–1502.