若年者のてんかんの原因として最も多いとされ、臨床的な意義は大きいと思われるにも関わらず、FCDは見落とされやすい疾患です。脳神経専門の同僚の先生に後日指摘していただいたことで、見落としを防げた(なお、自分は見落とした……)症例を経験したので、FCDの症例をいくつか呈示したいと思います。
FCDの参考症例
FCDのMRI画像所見は以下のようなものが一般にみられる
- 限局性の皮質・白質のT2WI/FLAIR/DIR高信号
- 皮質の肥厚
- 限局性の萎縮
- trans mantle sign (皮質下から白質に伸びる線状/楔状構造)
- 皮髄境界のぼやけ
type I:白質の軽微な異常信号がみられるのみで指摘困難なことが多い
type II:皮質より強い白質の信号上昇、皮質の肥厚、trans mantle signなどを特徴とする
type III:隣接する他の異常を伴うもの (ex.海馬硬化症、腫瘍、血管奇形など)
症例1 10代女性 type IIa

言われてみれば、他の部分の皮髄境界よりも不明瞭であることがわかる症例。DIRで不明瞭さが目立って見える。脳溝底部に限局するbottomo-of-sulcus type。
症例2 30代男性 type IIb

類似の症例として、わたしは過去に右前頭葉弁蓋部あたりからtrans mantle signを認めたものを経験。脳溝底部から即納室にかけて線状の高信号を認める。こちらもDIRでの描出がよい。
症例3 4歳女児 type I

DIRでの皮質下白質から深部白質での異常信号として病変を認める。
また、ECD-SPECTで発作時に集積亢進を認めている。
症例4 10歳男児 type II b

皮質下白質が皮質よりも高信号に描出されている。
症例5 type II疑い trans mantle signを呈する

右前頭葉脳溝から脳室に向かう楔状・線状の構造があり(trans mantle sign)、FCDを見つけるための目印となりうる。DIRの方が明瞭に描出される(上図ではわかりにくいが…)
radiopediaの症例集
症例6

右側頭葉の皮質下白質に高信号の病変を認める。 type II。
症例7

左後頭葉にFLAIRで高信号の病変を認める。 type II。
症例8

右前頭葉病変
管理人) これは厳しい…PETやシンチとあわせて診断できるか?という印象
症例8

右頭頂葉病変 type II
症例9


右前頭葉皮質下白質病変 type II
DIRで明瞭な高信号を示している。

FlAIRでも同定できるけど、やはりDIRが明瞭にみえる
症例10

右頭頂葉病変
症例11

右側頭葉(?)病変
症例12

左頭頂葉病変。皮髄境界がぼやけており、連続してtrans mantle signがあるようにみえる。
症例13 48歳男性

a:左前頭葉皮質のFLAIR高信号の病変を認める。b:T1WIで皮質の肥厚を認める。c:T2WIでは皮髄境界のぼやけがある。d:ADC値は周囲より上昇している。
症例14 35歳男性

a,b:FLAIRで皮髄境界はぼやけており、連続してtrans mantle sign(⭐︎)を認める。c:皮質は高信号に描出され、境界はぼやけている。d:ADC値は周囲より上昇している。
症例15 36歳女性

a:T1WIで皮質の肥厚を認める。b:FLAIRで皮質下の高信号と皮髄境界のぼやけを認める。c:冠状断でも横断像と同様の所見を認める。d:ADC値は周囲より上昇している。
症例16 21歳女性

a,b:FLAIR/T2WIで皮質下の高信号と皮髄境界のぼやけを認める。c:T1WIで皮質の肥厚を認める。D:ADC値は上昇している。
症例17 type IIb

症例 18 24歳女性

2箇所のFCDを認める。
症例19 3歳女児

A,B:T2WIで高信号の線状信号が皮質と髄質の境界にあり、少し境界がぼやけてみえる。C:MPRAGEではT2WIのバンド構造の部位がぼやけてみえる。D:術後。残存病変は認めるが症状は改善。
症例20

症例21 海馬硬化症を伴うもの

右側頭極の低形成とくも膜下腔の拡大。海馬の萎縮とT2WIの信号上昇(海馬硬化症を示唆)。
引用、参考文献など
【症例1,2】平井俊範・工藤與亮・堀正明編「MRI一問一答 撮像法選択と読影に”必ず”役立つ基礎知識」p165
【症例3-5】青木茂樹・相田典子・井田正博・大場洋編「よくわかる脳MRI」改定第4版
【症例6-12】Radiopedia “https://radiopaedia.org/articles/focal-cortical-dysplasia“
【症例13-16】Aslan et al.「Diagnostic contribution of focal cortical
dysplasia MRI imaging findings and ADC values」Egyptian Journal of Radiology and Nuclear Medicine (2019) 50:15【症例17-19】Horst Urbach et al.「MRI of focal cortical dysplasia」Neuroradiology (2022) 64:443–452
【症例20-21】Nadia Colombo et al.「Focal Cortical Dysplasias: MR Imaging,
Histopathologic, and Clinical Correlations in Surgically Treated Patients with Epilepsy」AJNR Am J Neuroradiol 24:724–733, April 2003
【MRI一問一答】では「MRIの原理」について詳しく解説したあとに、以降は大きく臓器別に撮影部位・疾患ごとに必要/追加すべきシーケンスについて詳しく説明を加えている。
症例1-2で引用したFCDの画像では、DIRやCHESS(脂肪抑制T1WI)での評価は有効となりうることについて解説していた。それと同じように様々な撮影部位・疾患で描出のために必要/有用なシーケンスについての解説を加えてあり、改めて参考になったことや新しく知った知識も多くあった。初学者からでも読めるオススメの1冊。